「早く、安く、賢く失敗しろ」という言葉がある。

成功は失敗の先にある。だから、早い段階でダメージの少ない形で、次につながるような失敗をどんどんしたほうがいい。女の子が王子様とキスをするためには、カエルともキスをしなければならない。つまり、大きな成功の前には小さな失敗がある。このことを説明するために、「下ネタたっぷりの年賀状」という話をしたい。

断っておくが、たいしたオチはない。

僕はエンジェル世代である。エンジェルとは、一世を風靡(ふうび)したエロ漫画であり、当時の若手に衝撃を与えた。学校では「なぜエンジェルはあんなにいやらしいのか」というテーマでディベートが開かれるほどであった。

ある者は女の子の描写が最強だと言うし、またある者は破天荒なストーリーがエンジェルの良さだと語る。確かにツチノコおじさんの話は学校をざわつかせた。しかし、エロ漫画ソムリエである僕は、エンジェルのいやらしさの本質を見抜いていた。それは擬音である。エンジェルには当時としては画期的ないやらしい擬音が登場した。エンジェルのいやらしい擬音はいろいろあるが、ナンバーワンは「ヌプッ」である。

このダーウィン並みの発見を同志に教えるために、僕はいやらしい擬音をたっぷり書いた年賀状を数人に送ることにした。年賀状には、「ぺちゃぺちゃ」「ぐちょぐちょ」等の音が、ところせましと書かれていた。あまりにも擬音を書くことに熱中しすぎて、「あけましておめでとう」を書き忘れるほどだった。

数人の友人に年賀状を出し終えた後、そのうちの友人のひとりからハガキが届いた。

「兼ねてより病気療養中の祖母が、11月27日、75歳にて永眠いたしました」と書かれていた。

年賀状は送らないでほしいという喪中のハガキである。と言われても、下ネタたっぷりの年賀状は既に出してしまっている。僕はやばいと思った。しかしどうすることもできなかった。

失敗は安く、早く、賢くである。大切なことは失敗を恐れるのではなく、失敗してそこから何を学ぶかである。失敗しない奴は挑戦しない奴だ。君たちがダメージの小さい失敗を多くすることを僕は望む。

その後、下ネタたっぷりの年賀状はどうなったかというと、家族で元旦に大爆笑したそうだ。その友人とは年明けの学校で前より増して仲良くなった。その年はその友人とたくさん遊んだ。僕にとって彼は、友人から遊人になったのだ。