「諸行無常」という言葉がある。

「世の中の事は変わり続ける」ということである。例外があるとすれば、「諸行無常と言う真理だけは変わらない」と言うことだ。万物は変わっていくのだから、「人生の調子の良い時はおごらず、調子の悪い時も腐らず」と言う教訓が得られる。今日は「諸行無常」の例として「マダムキラー」と言う話をしたい。

 断っておくが、たいしたオチはない。

 僕が高校生の時、人妻と付き合っている友達がいた。彼はよく「人妻は話が早い」と言っていた。僕たちは彼に「マダムキラー」と言うあだ名をつけた。彼は最初の頃には嫌がったが、徐々にあだ名は定着していった。

 彼のことを「マダムキラー」と呼ぶようになって、3ヶ月ぐらい過ぎた。彼もその頃は何の抵抗も示さず、「おい、マダムキラー」と呼ぶと「なんや?」と返事するようになっていた。

それからさらに1ヵ月ほど過ぎた。みんなが「マダムキラー」のことを「マダム」と呼ぶようになったのだ。確かに「マダムキラー」と言うあだ名は、少しワードが長い。みんなが「マダム」と呼ぶようになるのは、iOSのアップデートのようにすんなり行われた。

 彼が人妻と付き合っていることをカミングアウトしてから半年過ぎた。その頃には彼もすっかり「マダム」になった。サッカーをする時も、「マダム!逆サイド空いてる!」「マダム!シュート決めろ!」と本名を忘れてしまうくらいに定着した。一緒にサッカーをしていた彼の弟も、実の兄のことを「お兄ちゃん」ではなく「マダム」と呼んでいた。

 そして、その頃には彼の好みも変わり、同じ歳の恋人と付き合うようになっていた。仲間の間で、当時、女子高に通っていた恋人を見て、「マダムの新しい彼女、かわいいな」と噂をしていたのを覚えている。万物は常に変わり続ける。そのことを人間が正確に予測することはできない。

 想像もできないことが起こる。これが人生ではないだろうか。